地域と連携した幼児教育を実践する
地域と連携した幼児教育を実践する
杉並教会幼稚園
園長
芹野 創
略歴
同志社大学神学部卒業。同大学院修了。
芹野氏は、キリスト教の牧師として活動しながら、幼児教育に尽力している。クリスチャンホームで育ち、父母双方の祖父も牧師という家系出身。
2016年から杉並教会の牧師を務め、その付属幼稚園の園長を兼任している。
地域と連携した幼児教育を実践する
芹野氏が語る教育と信念
杉並教会幼稚園の園長であり牧師の芹野氏が、幼児教育に対する情熱や地域との連携を通じて、困難を乗り越えながら使命を果たす姿を語ります。杉並教会幼稚園の園長であり牧師としても活躍する芹野氏が、教育と信念を語ります。
クリスチャンホームで育ち、幼児教育への情熱を持ち続ける彼が、どのようにして困難を乗り越え、地域社会と連携しながら幼稚園を運営してきたのか。
その背景には、キリスト教の価値観に基づく「他者の痛みを理解し共に生きる社会を築く」という強い使命があります。これから彼の経験とビジョンに迫り、その物語に触れていきます。
教育への情熱と使命感
ー まず最初に、事業に関わるきっかけについてお聞かせください。
芹野氏:
はい、まず私のバックグラウンドからお話しします。
私は、クリスチャンホームで育ち、私の父方も母方も祖父が牧師です。
キリスト教の牧師である私が、教会からの要請により、杉並教会の牧師と、その付属施設である杉並教会幼稚園の園長に就任した事が幼稚園事業に携わるきっかけでした。
ー それはいつ頃のことですか?
芹野氏:
2016年ですね。今、杉並教会の牧師として9年目に入ります。元々、幼児教育や子どもに関わることが私の夢でした。
キリスト教の信念に基づく教育ビジョン
ー 芹野さんのミッションやビジョンについてお聞かせください。
芹野氏:
幼児教育は人間教育であり、将来の社会を作る基盤です。幼児期の教育が、その人の一生にわたる土台となると考えています。
キリスト教的な表現になりますが、他者の痛みを理解し、共に生きる社会を作ることが私たちの使命です。困っている人に手を差し伸べられるような、愛を持った大人になってほしいと思っています。
ー 素晴らしいですね。具体的にどのような取り組みをされていますか?
芹野氏:
少人数保育を実施しています。児童養護施設からも子どもたちを受け入れています。様々な背景を持つ子どもたちが共に過ごす経験が、幼児期の原体験となり、他者理解を深める機会となればと願っています。
また、幼児という育ちの観点からも、子ども自身がお互いの顔と名前が覚えられる少人数という環境は理想的です。
ー 未来の社会を描くうえで大切な取り組みだと思います。他にも何か取り組まれていることはありますか?
芹野氏:
地域との関係を大切にし、地域の方々の支援を受けながら運営しています。バザーの開催など、地域のネットワークを活用した活動も行っています。
これにより、地域全体が幼稚園を支えるコミュニティとなっています。
人生に影響を与えた学生時代の経験
ー 学生時代に影響を受けた出来事についてお聞かせください。
芹野氏:
大きな影響を受けたことは二つあります。一つは、大学時代に企業でインターンシップとして働いた経験です。
大阪のビジネス街にあるケーブル会社で、ほぼ準社員のような扱いで働いていました。電話対応や接客の仕方、パソコンスキルなどを学びました。
その会社の社長は、私がクリスチャンであることに、興味を持ち非常に可愛がってくれました。
ー 貴重な経験ですね。
芹野氏:
はい。とくに社長は私に朝礼でスピーチをする機会を与えてくれました。
毎朝社員が自分の考えや最近の出来事について話す場で、非常に緊張しましたが、自分の考えを言語化する重要性を学びました。
その経験が現在の私の教育観やビジョンに大きく影響しています。自分の考えを伝えた時に相手が共感してくれると感じた瞬間は、非常に嬉しく、貴重な体験でした。
ー なるほど。もう一つの出来事についても聞かせてください。
芹野氏:
もう一つは、大学のゼミでの韓国研修です。私はキリスト教を学んでいて、ゼミには韓国からの留学生も多くいました。
彼らが現地を紹介してくれることになり、ソウルの西大門刑務所跡地を訪れたことが特に印象深かったです。
ー どのようなことが印象に残っていますか?
芹野氏:
旧日本軍が作った刑務所跡でその中はその当時のまま保存されていて、壁には反日的な落書きがあり、非常に強烈な反日感情を感じました。
その時に、同じ歴史の出来事でも、立場によって見方が全く異なることを実感しました。日本では終戦記念日とされる8月15日が、韓国では解放記念日として祝われます。
この違いを肌で感じたことで、多様な視点の重要性を学びました。
ー その経験が現在の教育方針にどのように影響していますか?
芹野氏:
幼稚園では様々な背景を持つ子どもたちがいます。
そのような環境の中で過ごす経験が、他者に想いを寄せ、共感する力を養い、共感する力は、将来の平和で共生する社会の基盤となるのではないかと思います。
感謝の心と信仰の力
ー 次に人生で最も感謝していることについて教えていただけますか?
芹野氏:
私はキリスト教の信仰を持っているので、自分の力だけで今ここにいるわけではないということを常に意識しています。
自分の知らないところで多くの人に支えられていることを感謝しています。具体的なエピソードというよりも、常に自分が支えられているという感覚を持つことが重要です。
ー その感覚を持つことが大切なんですね。
芹野氏:
そうです。特に教会の現場では、他の人が自分のために祈ってくれているということが大きな支えになっています。
また、自分の経験や出会いに感謝しています。振り返ってみると、その時々の出会いや経験が今の自分を作っていると感じます。
挫折と再起の経験
ー 挫折の経験について教えていただけますか?
芹野氏:
大学を卒業して最初の2年の間、伝道師(主任牧師の補佐)として働き始めたんですが、上司の主任牧師と全く反りが合わず、結局2年で辞めることになりました。
その時は本当に自分が牧師としてやっていけないと感じ、全く違う世界に行こうと考えました。
ー その時どのように乗り越えましたか?
芹野氏:
その時は本当に辛く、生活も昼夜逆転してしまい、かなり荒れた生活を送っていました。
自己都合での退職だったため、雇用保険も少なく、ハローワークに通いながらなんとか生活していました。
週に一度だけ非常勤の講師の仕事があったので、それが唯一の救いでした。やがて、社会福祉の事務所でバイトを始めました。
ー その経験が今の芹野さんにどのような影響を与えたのでしょうか?
芹野氏:
その事務所は、ご夫婦で経営されている訪問看護ステーションの事務所で、パソコン業務などを手伝うことになりました。
実は、そのご夫婦もクリスチャンで、私がクリスチャンであることを知ると、非常に親身になって接してくれました。この経験を通じて、自分が再び牧師としてやり直す決意を固めました。
ー その後、どのように牧師として再スタートを切ることになったのですか?
芹野氏:
その頃、大学の教授から連絡があり、神戸の教会で牧師と附属の幼稚園の教員として働く機会をいただきました。これが大きな転機となり、幼児教育に深く関わることになりました。
2011年から5年間、牧師だけではなく、保育士の資格も取得し幼稚園で働いた経験が現在の私の基盤となっています。
ー その後、東京で現在の職務に就かれたのですね。
芹野氏:
はい。東京の教会から主任牧師と幼稚園の園長を探しているというお話をいただき、現在の職に就くことになりました。
これまでの経験がすべて現在の仕事に生かされていると感じています。
挫折と再会で得た共感の力
芹野氏:
上京してから、かつて、挫折した時の牧師と再会する機会がありました。その牧師も年を重ね、体調を崩されるなど、様々な環境の変化があったようです。
再会の場でお互いに感謝の言葉を交わし、過去の辛い経験が今の私を形成する一因となったことを
実感しました。かつて反りが合わなかったこの牧師も私を応援していると声をかけてくれました。
ー そのような再会があったのですね。
芹野氏:
その再会を通じて、挫折や痛みが他者の気持ちを理解するための大切な経験であることを再確認しました。人の悲しみや痛みを理解するには、自分自身の経験が必要です。だからこそ、傷つくことを恐れず、挑戦することが重要だと感じています。
ー 現代の社会では、傷つくことを避ける傾向がありますが、その点についてどうお考えですか?
芹野氏:
確かに、現代ではバーチャルな世界での経験が多く、現実での苦しみや痛みを避ける傾向があります。しかし、現実の世界での経験が本当に人間としての成長につながると私は信じています。
だからこそ、若い人たちには傷つくことを恐れずに挑戦してほしいと強く思います。
ー 現実の経験が大切だということですね。他に、今までの経験で特に印象に残っていることがあれば教えてください。
芹野氏:
そうですね、やはりハローワークでの経験が大きいです。そこで多くの人々が職を探し、家族を養うために必死に頑張っている姿を見て、他者の苦しみを理解することの重要性を学びました。
それが現在の私の仕事においても大きな役割を果たしています。人々の心に寄り添い、支えることができるのは、自分自身が辛い経験をしたからこそだと思います。
教育の未来を見据えて
ー これまでの経験を聞かせていただきましたが、今後の展望についてもお聞かせいただけますか?
芹野氏:
そうですね。正直、3年後、5年後の未来がどうなるかはかなり不透明です。現実的には少子化の影響で、園児の数は減っていくでしょう。
その中で、どうやって生き残っていくかが課題です。
ー どのような取り組みをしているのでしょうか?
芹野氏:
いろいろと模索していますが、例えば、公式LINEを立ち上げることにしました。
幼稚園バザーで、来場者にLINE登録を促し、情報発信を強化していこうと思っています。これが園児募集にもつながることを期待しています。
ー 他にも何か考えていることはありますか?
芹野氏:
私たちの幼稚園はキリスト教を基盤とした教育を行っていますが、この価値をしっかり伝えることが大切だと思っています。
ただし、今の時代は株式会社型の保育園が増え、利益追求が優先されることが多くなっています。私たちは子どもの育ちを最優先に考えていますので、ここでのバランスが難しいですね。
ー そのバランスをどう保つかが大きな課題ですね。具体的にはどのような悩みがありますか?
芹野氏:
子育て支援」という名目で、親御さんのニーズに応えることが求められます。しかし、教育の本質を見失わないようにすることが重要です。
教育は子どものために整えられた制度であり、子どもの成長や発達を重視します。一方、「子育て支援」は親御さんの支援が中心で、働きやすさを考慮します。
ー その違いを理解することが大切ですね。今後、どのようにして幼稚園を運営していくかについて、どのような考えをお持ちですか?
芹野氏:
幼稚園としての教育理念を守りながら、時代の変化に適応していくことが必要です。例えば、降園後の預かり保育の充実などがあります。
しかし、利益追求に走らず、教育の質を維持することが最優先です。
ー その点で、どのような支援が必要だと感じていますか?
芹野氏:
国や自治体からの支援も重要ですが、地域社会の協力が欠かせません。
幸い、私たちの幼稚園は地域の方々に支えられており、卒園児やその親御さんからの支援も多いです。これが大きな力となっています。
ー 最後に、芹野さんご自身の今後の展望をお聞かせください。
芹野氏:
私自身もこの幼稚園での経験を通じて成長してきました。今後も子どもたちの健やかな成長を支えながら、地域社会と共に歩んでいきたいと思います。
教育は単なるビジネスではなく、人と人とのつながりを大切にすることが大切です。それを忘れずに、これからも努力していきます。
芹野氏の語る未来には、彼の経験と信念が色濃く反映されています。
少子化という大きな社会問題に直面しながらも、彼は地域社会との連携や信仰に基づく教育の質を守り続ける決意を持っています。
その取り組みは、地域全体の協力を得たバザーや多様な子どもたちの受け入れなど、多岐にわたります。
これからも彼の情熱と努力が、幼稚園という小さなコミュニティを超えて、多くの人々の心に届くことを期待しています。
彼のビジョンは、未来の教育の一つの指針となるでしょう。
Pick up
杉並教会幼稚園に根付く
幼児教育の環境と地域の協力と支え
幼児教育の環境
杉並教会幼稚園では、幼児期に様々な背景を持つ友だちと過ごす経験が、将来の価値観の基盤になると考えています。
近年、「多様性」という言葉が広く使われていますが、同園の教育理念は時代の流行に左右されたものではありません。
教育の本質は時代や社会のニーズに応えることではなく、建学の精神であるキリスト教信仰のもと、子どもたちの生活環境を整えることが重要だと考えているのです。
また、少人数保育をおこなっている理由は、子どもたちが互いに顔と名前を覚え、安心できる環境を整えるためです。
経営的には大人数の方が安定するものの、杉並教会幼稚園は「教育的利益」を最優先し、日々の保育の質を高め、子どもたちの豊かな成長を支えています。
これからの社会で多様性と受容と共生の精神力が重要となる中、この幼児期の体験が、彼らの人生の土台になることを願っています。
地域の協力と支え
地域の人々との強い繋がりが感じられるエピソードがいくつかあります。その一つが毎年開催されるバザーです。
このバザーには、在園の保護者だけでなく、卒園した子どもたちの親御さんも積極的に参加してくれます。物品の提供や準備、片付けの手伝いに至るまで、多くの人が協力してくれるのです。
卒園した子どもの家庭も自発的に品物を集め、他の家庭や地域の人々も自然に参加してくれる状況が生まれています。
物品を届けに来る人もいるほどで、まるで一つのコミュニティがバザーを支えているかのようです。
この広がりは、幼稚園側が計画的に仕組んだものではなく、日々の積み重ねや信頼関係の中から自然発生的に生まれたものです。
幼稚園の教職員たちは、こうした地域の協力と支えを非常に感謝しています。
これらのエピソードは、地域社会の温かさと幼稚園が果たしている重要な役割を示しており、日々の努力と信頼関係がいかに大切であるかを改めて感じさせるものです。
思いやりのある心を育む
教育の特長
キリスト教主義に基づく保育を行っています。
讃美歌や聖書のお話しに親しむなかで、神様の存在を身近に感じてほしいと願っています。
神様と周りの人たちに愛されているという安心感が、自分を大切にし、友だちを信頼して関わる力へとつながります。
少人数保育
1クラス15名の少人数保育を行っています。
子どもたち一人ひとりに目と心を配りながら、丁寧に関わっています。
また、少人数の見知った環境のなかで親しく過ごすことは、子ども自身の安心につながり、成長の大きな糧となります。
自由遊び
幼稚園の1日は「自由遊び」から始まります。
自由遊びは、杉並教会幼稚園の保育の大切な柱です。自由遊びは「放任」ではありません。
子どもたちが自分の好きな遊びを見つけ、心から満足してじっくりと遊ぶことができる環境を整えるようにしています。じっくりと遊びこむ時間があるからこそ、クラス活動や園生活の安定につながります。
豊富な絵本
幼稚園には3,000冊以上の絵本を蔵書。
保育のなかでも毎日、読み聞かせをしています。絵本の読み聞かせは子どもの心を豊かにするものです。
また、読み聞かせを通して、「聞く(聴く)こと」の心地よさを感じてほしいと考えています。人間は、「聞く(聴く)こと」から言葉に触れるからです。
毎日の礼拝
神様への礼拝は、杉並教会幼稚園の保育の土台です。
職員も子どもたちの登園前に朝の短い礼拝を守り、1日を迎えます。
神様がすべての命を愛し、子どもたちの成長を豊かに与えてくださることを信頼して保育にあたります。保育のなかでは、毎日子どもたちと短い礼拝を行い、讃美歌や聖書の言葉に親しみます。
園長のご挨拶
幼児期をどのように過ごすかは、その後の人生に大きく関わることです。
「何かをやろうとするときに、そのことに心を集中させないと、その人は一生そのことができなくなる」
と、考える教育者もいます。人間の成長には、その時々に相応しい環境が必要なのだと思います。
幼稚園の「幼児教育」は、必ずしも大人が「何かを教える」ことではありません。
幼児期の成長に欠かすことのできない生活環境を整えることは、とても大切です。ご家庭で整えることができる環境もあるでしょう。
しかし、ご家庭とは違う、集団生活を通して整えられる環境もあるのです。
杉並教会幼稚園では「自由遊び」「少人数保育」「絵本」「礼拝」という4つの環境を整えながら、子どもたち一人ひとりの成長に寄り添って保育をしています。
日本キリスト教団杉並教会付属 杉並教会幼稚園 園長 芹野 創